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第9話 気候がもたらす感冒

 かぜの季節到来。東洋医学では感冒と呼ぶ。「感」は外から刺激されること。「冒」は目を覆い隠すことで、ふさがれてもあえて進む(例・冒険)意味でも使われる。つまり感冒は「感じ冒される」と訓読され、外界の寒さなどの自然現象の体の抵抗線を突破して体内に入り込み、その刺激で起きた病気というわけだ。西洋医学では感冒はウイルスなどの侵入によるとされる。侵入という考え方は東洋医学も同様であり、素朴だが本質を言い当てていよう。

 「かぜは万病の元」ともいう。寒さや暑さ、湿気などは病気の原因の一つとされ、これらは風によって運ばれる。風はいろいろな病気をもたらす。感冒が「かぜ」と呼ばれ、「風邪」と書かれるのはこのためだ。

 感冒の漢方治療は、なかなか難しい。気候、進行具合、体質(虚弱かどうか)などによって色々な症状が出現し、その結果、多くの漢方薬が使われるからだ。ここが西洋医学とは異なる。例えば私の感冒初期症状の研究では、悪寒は冬季に多く、夏季は非常に少ない。のどの痛みは逆に夏季に多く冬季に少ない。初期症状は気候の影響が大きいのだ。また初期は悪寒やのどの痛み、筋肉・関節痛など体の表面に症状が出て、時間の経過とともに胃腸症状やせきなど肺症状に移っていく。

 広範囲に使える漢方薬もある。参蘇飲だ。参(人参)は胃腸や全身の虚弱状態を改善し、蘇(紫蘇)は胃を整え温めて感冒を治す。せき止めの配合もある。胃腸虚弱者や老人の寒さによる初期~中期の総合感冒剤と言える。

 ちなみに悪寒とは、寒さを嫌う(悪)という意味である。寒さは低温の環境に影響されて体が寒くなること。ひどい悪寒だと、風呂なので体を温めても改善しない。一方、寒さと似た言葉に「冷え」があるが、温めれば改善するものをこう呼ぶ。

 つまらないオヤジギャグには「サブー(寒い)」と返すのがお約束だ。外から耳を通して入ってきた刺激だから、この形容詞が使われるのだろうか。愛は「冷える・冷める」とは言うが「寒い」とは言わない。自分の内なる心が冷えたからだろう。これも「冷え」同様、温めれば元に戻る事を信じたいものだ。


三浦於菟

~2013年11月21日毎日新聞より転載~






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