

第10話 「おとそ」は養生法の原則
「おとそ気分」とは、正月のうきうきした気分を表す常套句だ。おとそは正月に飲むお酒と思っている人も多いが、屠蘇散という漢方薬を大みそかに清酒に浸しておき、元旦の朝、雑煮を祝う前にその年の健康長寿、来福を祈って飲むのが伝統的な正月行事だ。...


第9話 気候がもたらす感冒
かぜの季節到来。東洋医学では感冒と呼ぶ。「感」は外から刺激されること。「冒」は目を覆い隠すことで、ふさがれてもあえて進む(例・冒険)意味でも使われる。つまり感冒は「感じ冒される」と訓読され、外界の寒さなどの自然現象の体の抵抗線を突破して体内に入り込み、その刺激で起きた病気と...


第8話 有害物が増える「実証」
東洋医学の病気の解釈には虚証と実証があること、虚証は生命力が低下している状態であることを前回書いた。今回は実証について。 「実」は本来「實」と書く。家(宀)の中に米(田)や財宝(貝)がたくさんあるという意味だ(學燈社「漢字語源辞典」)。東洋医学では、財宝ではなく有害物(邪と...


第7話 生命力低下した「虚証」
病気はどうやって起こるか。東洋医学の考え方に基づき、車のエンジンに例えながらみてみたい。 まずエンジンそのものが壊れた場合。人間では生命力・抵抗力が低下した状態だ。そして、車が水に浸かった時のように、壊れてはいないが一時的に動かなくなった場合。元気な人がひく風邪がこれにあた...


第6話 体のサインから見る病気の姿
バブル真っ盛りのころ、診察室に入るやいなや「神棚はないのですね」という患者さんがいた。東洋医学の診察は神秘的で独特なものと思っていたようだ。だが基本的には西洋医学と同様。患者さんの訴えを聞き、全体の様子や皮膚、舌を観察し、脈やおなかを触る。古い医学のため、レントゲンや血液な...


第5話 暑さで体を壊さないように
「夏月もっとも保養すべし」。貝原益軒は『養生訓』の中で、こう注意をうながしている。夏には、暑さ、湿気、胃腸の病気が特に多いからだ。 夏の語源は「アツ」だという。夏の病気の代表といえば熱中症。これは西洋医学の病名で、東洋医学では中暑と呼ぶ。暑さに中(あた)る病気、というわけだ...
第4話 万引きの薬にも使われた半夏
早いもので、一年も半分が過ぎた。 時の流れを視覚で感じさせてくれる植物にドクダミ科の半化粧(ハンゲショウ)がある。 まさに今ごろ(7月上旬)、上部の三枚の葉が白粉をぬったように半分程度白くなる様子からの名称であり、三白草(ミツジログサ)、オシロイカケ、片白草(カタシロクサ)...
第3話 漢方医学と東洋医学はどう違うの
東洋医学は5~6世紀ごろ、中国から渡来した。それ以前の医学がどんなものだったか定かではないが、民間薬や温泉療法などはそのなごりであろう。例えばハトムギはイボ取りの漢方薬(薏苡仁)だが、中国にはない日本独自の使い方だ。 「漢方医学」とも呼ばれるが、江戸時代中頃に広まった蘭...
第2話 死んだら神様になる?-失神・神経の語源-
“チィダラカヌシャマヨ”と合いの手がはいる安里屋ユンタいう沖縄民謡がある。本島人には、“死んだら神様よ”と聞こえるのも、そこになにか納得感があるからだろう。 もしあの世で、天満宮の菅原道真公と中国の古代医家が会話をしたとしよう。“私も神になりました”と菅原公。“違います。...
第1話 個人無視こそヤブ-ヤブ医者の語源-
いきなり名医の漢方教室風 に始めるのも気が引けるので、ヤブ医者の話を。 この語源には諸説ある。一つは「野巫(やふ)」。野は民間、巫はみこの事で、理論ではなく祈祷で病気を治す医者という意味である。腕がないくせに「兵庫県養父(やぶ)市の名医から習った」と吹聴する医者という説...